朝日新聞社は、新部署の発足に伴い本社の1フロアをリニューアル。各拠点に分散していた従業員が集い、活発にコミュニケーションが行われる新たなオフィスを構築した。本プロジェクトにおいてイトーキは、プロジェクトマネジメント、レイアウトデザイン、インテリアデザインを担当した。
新組織のための、新たな働き方を体現する空間へ
—はじめに、本プロジェクトの背景と目的を教えてください。
松田: 本プロジェクトは、朝日新聞社様における新部署「メディア事業本部」の発足が背景にあります。これまで各拠点に分散していた約800名もの方々が一つのオフィスで働くにあたり、いかに新組織としての一体感を醸成し、従来の枠を超えた新しい働き方を実現するかがテーマでした。特に、これまで接点の少なかった従業員同士の自然な交流を促し、新たな関係性を築く「話すきっかけ作り」が重要な課題だと認識していました。
また、お客様の「拠点の中で一番いいオフィスを作りたい」という熱意や、「新しい組織の象徴となるような場所をつくりたい」という強い想いも指針となり、こうした期待に応え、新組織の船出にふさわしい先進的で質の高い空間をつくること。そして、オフィスが新たな価値を生む拠点となること。これらを目的に本プロジェクトがスタートしました。
田中: 様々な事業部が統合してできた新部署だからこそ、ワンチームとして機能していくための拠り所となるようなオフィスが求められていると感じました。その想いを胸に、新しい働き方やコミュニケーションが自ずと生まれる空間づくりに注力しました。
「CLEAR」な関係性を育むオフィス
—オフィスのコンセプトと、空間設計をする際に意識したことを教えてください。
松田: 今回のプロジェクトの目的を達成するにあたって、個々の力を最大限に引き出し、部門を超えた新たな価値の創出を促すには、自然発生的なコミュニケーションを生む仕掛けが不可欠だと考えました。
そこで私たちは、「CLEAR」というコンセプトを提案しました。風通しの良いコミュニケーションと組織の透明性を高め、オープンな協働を促すことが狙いです。新聞社ならではの活気ある雑談や自由なアイデアが飛び交う光景を新たな形で再現し、偶発的な出会いやひらめきが生まれる環境を目指しました。
田中: この透明性と偶発性を両立させるために、ゾーニングを一般的な空間設計とは逆転の発想で行っているのが特徴です。初めに通路を作る一般的な手法ではなく、執務エリアや集中ブースなどの機能を自由に配置し、その間を人が縫うように移動する「通路をつくらない」ゾーニングとしました。また、デスクを規則的に並べずあえてランダムに配置することで、多様な活動が視界に入りやすくなるよう工夫しています。
これにより、オフィス内で予期せぬ出会いや会話が生まれやすくなり、「CLEAR」な関係性を育むきっかけが生まれることを狙いました。
先進性と朝日新聞社のアイデンティティを両立するデザイン
—コンセプトや朝日新聞社様らしさを、どのようにして具体的なデザインに反映しましたか?
松田:「CLEAR」というコンセプトは、空間全体の考え方やマテリアル選定に反映しています。ガラスや水面パネル(※)などの透明感ある素材を使いながら、模様や加工で奥行きも表現しました。また、透明感だけでなく居心地の良さも重視し、木材などの自然素材を取り入れて温かみを加えています。
このコンセプトを象徴するのが「センターコア」です。床を一段下げ、さらに天井板を取り払い、天井の配管や配線、ダクトが見える「スケルトン天井」とすることで、開放感と特別感を演出しています。
田中:センターコアを囲む境界の設えには特にこだわりました。完全にオープンにはせず、両面ソファやハイカウンター、開口部のある壁で構成することで、自然と視線が交わったり、会話のきっかけが生まれたりするよう意図しています。
松田:出入り口を3箇所に絞ることで、外とのつながりを保ちつつ、内部の落ち着きを保っている点も特徴です。
加えて大切にしたのが、「朝日新聞社様らしさ」です。たとえば、来客エリアのテーブルには、裁断した新聞紙を固めたオリジナルの天板を採用。また、新聞印刷の原理である減法混色をモチーフにした柱のサイン、トンボマークをあしらった会議室のサインなど、細部に朝日新聞社様らしさを散りばめています。
※鏡面ステンレス材に水面に広がる波紋のようなエンボス加工を施したパネル建材
信頼関係があったからこそ、実現できた革新的な空間づくり
—リニューアル後の成果と、プロジェクトを振り返っての感想をお聞かせください。
松田: 今回のプロジェクトは、朝日新聞社様にとって大きな挑戦でもありました。そのため、新しい働き方がスムーズに浸透するよう事前に従業員の皆様へコンセプトやオフィスの使い方をご説明していました。それも功を奏してか、実際にセンターコアをはじめ各エリアが活発に使われていると伺い、大変嬉しく思っています。
このプロジェクトが形になった背景には、やはりお客様との信頼関係が大きかったと感じています。私たちの提案を信じて、時には大胆な挑戦も「やってみよう」と受け入れてくださったおかげで、先進的なデザインやユニークなアイデアを実現することができました。
田中: 「通路をつくらない」という前例のないレイアウトも、お客様が柔軟に、そしてオープンに私たちの提案に向き合ってくださったからこそ、実現できたのだと思います。
松田: お客様と深く対話を重ねながら、一緒により良いものを作り上げていく。このプロセス自体が私たちにとって貴重な経験であり、大きな学びとなりました。これからもお客様一人ひとりに寄り添い、期待を超える空間を提供できるよう挑戦を続けていきたいです。
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