イトーキは、本社ワーキングショールーム「ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO」の12階をリニューアルしました。蓄積してきたオフィスデータと空間デザインを本格的に掛け合わせた、初めてのフロアです。
メインコンセプトに掲げたのは「チームコワーク」。さらなる成果につながるチーム運用の進化と、人的資本の最大化を後押しするオフィスを目指しました。
個の力を最大化する、チームで働くオフィス
今回のリニューアルに至った背景と、オフィスのコンセプトを教えてください。
香山:ITOKI DESIGN HOUSE TOKYOは、社会や働き方の変化に合わせて改修を重ねてきました。2018年の開設時は「働き方改革」、2020年には「コロナ禍」、その後は「出社回帰」と、オフィスを取り巻く環境は変化してきました。現在は、ただ出社するのではなく、「出社する意味や目的」そのものが問われる段階に入っています。
そうした社会の変化に加えて、イトーキ本社内でも、働き方や組織のあり方が変化していました。業績好調の裏で、仕事そのものが複雑化し、一人では解決しきれない課題が増えるなか、チームで協働する必要性が高まっています。また、キャリア採用が増えるなかで、メンバー同士が関係性を築き、チームとして力を発揮できる環境づくりも重要になっていました。
こうした社内の変化は、これまで蓄積してきたオフィスでの移動や働き方のデータにも表れています。同じフロアで比較しても、一人で働く場所より、チームで協働・コミュニケーションできる場所のほうが能力を発揮しやすい、という結果が出ていました。実際、2024年にリニューアルした11階にチームで働ける場を設けたところ、1年後には個々の能力発揮度(一人ひとりがパフォーマンスを発揮できている度合い)が大きく向上しています。
社会の潮流とこれまで蓄積してきたデータの両面から、自律した個をベースにしながらも「チームで働くこと」を選択できることがITOKI DESIGN HOUSE TOKYOに求められると考えました。そこで今回は、「人的資本の最大化」と「チーム運用の進化」をコンセプトに据えました。
五街道の起点・日本橋を、オフィス空間に重ねて
コンセプトを、空間にどう落とし込んだのでしょうか。
香山:設計にあたって着目したのが、本社が所在する「日本橋」という土地柄です。日本橋は、江戸時代から五街道の起点として、人や情報が行き交ってきました。そこで、人や情報が流れ、交わる日本橋の姿を、オフィスの空間になぞらえました。
東西に約100メートルあるフロアを、日本橋がかかる「川」とその「両岸」に見立て、3つのエリアにゾーニングしました。フロア中央が「川」にあたるオープンワークエリア、その左岸の出入り口側にコモンズテラスとコモンズヒル、右岸の窓側にチームコワークエリアを配置しています。
細田:各ゾーンには、「能力発揮を支える」場と「能力発揮を育てる」場という2つの視点から、明確な役割を持たせています。
中央のオープンワークエリアと、フロア入り口付近のコモンズテラス・コモンズヒルは、「能力発揮を支える」場です。なかでも中央のオープンワークエリアは、人や情報が流れる「川」のような場所。壁や視線を遮るものを極力なくし、通路を歩くだけで、メンバーの様子や、どんな単位のチームが動いているかが自然と目に入るようにしました。人や情報が自然に行き交うことで、偶発的な出会いやコミュニケーションが生まれることを狙っています。
その左岸のコモンズテラスとコモンズヒルは、人と人との関係性をつくり、チームで働くための土台となる場です。コモンズテラスは飲食をしながら働けるカフェのようなエリアで、ゆったり交流しながら関係性を深められます。コモンズヒルは大型モニターを備えたベンチ状のスペースで、チームの情報共有やチームビルディングに適しています。
一方、右岸の窓側に配置したチームコワークエリアは、「能力発揮を育てる」場です。チームで時間と場所を共有し、活発な議論や協働を重ねることで、チームとして成果を発揮していくことを想定しています。
ゾーニングには、どのようにデータを用いたのでしょうか。
細田:こうした空間構成には、これまでの検証で得たデータも反映されています。改修前の12階でとくに能力発揮度が低かったのは、視線が抜けず、閉じこもって集中するエリアでした。分析から、「孤立感」が能力発揮を下げる要因の一つだと分かったのです。そこで今回は、できるだけ視線が抜け、人の気配やチームの動きが感じられるオープンな構成へと転換しました。
香山:チームコワークエリアを窓側に置いたのも、ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO 11Fでのパイロットエリアの検証結果に基づいています。窓際の明るい場所では能力発揮度が高まりやすい一方、周囲から視線を浴びる位置では発揮しにくいという傾向が見えました。そこで、チームで成果を生み出すチームコワークエリアを、優先的に窓側へ配置しています。ただし、働き方は常に変化するものです。また、その場のデザインに影響されるため、あえて窓側でない場所にも一部設け、今後も実際の能力発揮度を見ながら検証を続けていきます。
異なる個性が響き合い、調和するデザイン
空間デザインのディテールについて教えてください。
細田:ゾーンごとに個性を持たせながら、フロア全体として調和するようにデザインしています。
社員同士の関係性を深める場であるコモンズテラスは、屋外にいるような開放感を演出し、リラックスして過ごせる空間にしました。メッシュ天井によって天井を高く感じられるようにし、他のエリアよりも明るい照明を採用しています。また、土を用いた自然素材のマテリアル等を取り入れ、やわらかな質感に仕上げています。
メインのフローリングには無垢材を継ぎ目が目立たないように組み、東西に繋がるライン照明を採用するなど、「川」というコンセプトを反映させ、人・情報・モノが流れていく様子を表現しています。
チームコワークエリアでは、活発な議論が生まれる雰囲気を色で表現しています。フロア全体は白に近いベージュを基調としながら、このゾーンには温かみのある赤いカーペットを取り入れました。チームが自然と集まり、活発に議論する場に宿るエネルギーを、赤の色味に込めています。
香山:ゾーンごとに個性を持たせる一方で、それぞれを完全に分断するのではなく、細かな要素を通じてフロア全体がつながるようにもしています。
たとえば、フロアサインに使っている青色です。サインは小さなものでも空間のなかに点在するため、その青を各エリアに散りばめることで、それぞれのテーマを保ちながら、空間同士をゆるやかにつないでいます。また、コモンズテラスで使っている土の素材を別のゾーンの小物に取り入れるなど、一つのエリアの要素を別の場所にも少しずつ持ち込んでいます。
今回新たに開発したプロダクトには、どのような工夫を施しましたか。
中村:今回担当したのは、チームコワークエリアに設置しているシェルフとソファです。いずれも、この12階で実際の使われ方を検証するために、自社で開発したプロトタイプです。
シェルフの開発にあたっては、「ゆるやかに空間を仕切る」「モニターを備える」「通路側は低く仕切る」「形を変えたり動かしたりできる」といった、チームで働くための複数の機能を盛り込みました。
開発部門のメンバーとは、「そもそも棚とは何か」というところから議論しました。そこで行き着いたのが、棚の役割を「ストック(保管)」から「シェア」へと再定義することです。書類を保管する一般的なキャビネットは、奥行き450ミリ程度でつくられています。一方、このシェルフは奥行きを360ミリまで抑え、レイアウト変更にも対応しやすい設計にしました。そのうえで、モニターやホワイトボード、ベンチなど、チームで働くために必要な機能を組み合わせられるようにしています。
細田:もう一つが、背の低いソファです。4人ほどで集まれる場所として設けています。
一般的なファミレスブースのように頭の高さまで囲うのではなく、あえて低く抑えることで、周囲との視線が抜けるようにしました。低くゆるやかに囲うことで、チームとして集まりながらも、後ろの通路からも声をかけられるようにしています。周囲とのつながりを保ちながら、落ち着いて話せる絶妙な距離感をねらいました。
デザインとデータが融合し、進化し続けるオフィスへ
プロジェクト全体を振り返って、いかがでしたか。
香山:ITOKI DESIGN HOUSE TOKYOは1~2年ごとに大規模改修をしています。今回、同じフロアの2回目のリニューアルは初めてです。2022年に自分たちで設計し、すでに完成度もコンセプトも確立しているフロアだからこそ、そこに新たな価値をどう加えていくかが、今回の面白さでした。赤や青といった個性の強い色を取り入れることは、これまでのフロアにはなかった挑戦で、印象に残る変化を生み出せたと思います。
西岡:このプロジェクトでは、デザインの質を高めることはもちろん、それ以上に「データをどう設計に取り込むか」に挑戦しました。データを起点に設計プロセスそのものを変えることは、これからのオフィス提案にも直結します。それを自社で実践できたことは、この上なく貴重な経験でした。
細田:多職種のメンバーがプロジェクトのゴールを目指し、それぞれの要素をつなぎながら、一つの空間をつくり上げました。「チームコワーク」というコンセプトも、言葉や標語として掲げるだけではなく、空間の構成要素やアート表現の細部に至るまで、丁寧に組み込んでいます。
中村:ペーパーレスの時代に「そもそも棚とは何か」から問い直し、再定義できました。奥行きや可変性にこだわり、複数の機能を組み合わせたシェルフを、空間の視点から実装できたと思います。
田中:内装仕上げや施工の細部まで、こだわりを持って担当できたことはデザイナーとして大きな学びになりました。特にコモンズヒルの造作ベンチは、原宿や表参道でのフィールドワークを通じて、空間のスケール間や過ごし方を意識してデザインを行いました。目指していた「日常的に使いたくなる居場所」を実現できたことにも、大きな手応えを感じています。
宮折:全体を3Dで設計しながら、細部は超大型スクリーンに原寸大で投影して体感確認する、デジタルとフィジカルを往復する手法を実践しました。3Dでリアルタイムに修正しつつ、間接照明の幅などは実物をつくって確かめるなど、細部まで詰められた、貴重な機会でした。
最後に、今後の展望について教えてください。
西岡:オフィスは作って終わりにせず、働き方や会社の変化に応じてアップデートしていくことが必要です。そこで、リニューアル後の12階については、全部署から選ばれたメンバーと事務局を合わせた総勢28名で構成された新しい自治会「Tune Up CREW」が立ち上がっています。オフィスを「維持する」のではなく、データをもとに「育てる」こと。メンバー自身が体験したことを定量・定性の両面から検証しながら、効果を確かめ、改善を重ねていきます。
香山:数値を根拠に、何が成果につながっているのかを見極めながら、空間のデザインやディテールを磨いていくことが大切です。オフィスを作った後も、イトーキがデータを通じて効果を検証し、お客様と一緒によりよい空間へとアップデートしていく。そうした伴走を、これからも続けていきたいと思います。
ITOKI DESIGN HOUSE TOKYO 12F
蓄積してきたオフィスデータと空間デザインを本格的に掛け合わせた、イトーキ本社ワーキングショールームの12階。「チームコワーク」をコンセプトに、人や情報が行き交う日本橋の姿を空間になぞらえ、個の力を最大化しながらチームで成果を生み出すオフィスを実現。人的資本の最大化とチーム運用の進化を後押しする。
| 所在地 | 東京都中央区 |
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| 竣工 | 2026年6月 |
| 面積 | 7200㎡ |
| 人数 | 1300人 |
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