福岡地所株式会社様が天神ビジネスセンターⅡ内に開設する、ディープテック・スタートアップ向けインキュベーション施設「Fukuoka Innovation Lab. Tenjin(以下、FIL. Tenjin)」。イトーキはコンセプト策定から空間設計・内装デザインまでを担当しました。
アイデアが熟成し、化学反応を起こす拠点へ
はじめに、本プロジェクトの背景とコンセプトについて教えてください。
丹羽:福岡地所様はこれまで、スタートアップ企業の創業支援施設「FGN(Fukuoka Growth Next)」を8年にわたり運営してこられました。
今回新たに計画した「FIL.Tenjin」は、福岡市が推進する大規模都市再開発プロジェクト「天神ビッグバン」の一環として建設された「天神ビジネスセンターⅡ」の4階に構える施設です。宇宙・AI・半導体といったディープテック領域に特化し、ミドル期やレイター期のスタートアップ企業を対象としています。FGN卒業生をはじめ、国内外の企業や研究機関、投資家など、多様なステークホルダーが集い、最先端技術の事業化と新たな産業の共創を進める拠点として構想されました。
鎌内:こうした施設のビジョンを空間として表現するために設定したコンセプトが「粒子が集まり、熱を帯びる」です。「粒子」は天神ビジネスセンターⅡの外観に施されたピクセル状のファサードデザインから、「熱」は電球をモチーフとした「FIL.」のロゴから、それぞれ着想を得ました。この場に無数のアイデア(粒子)が集まり、化学反応を起こしながら成熟し、新たなイノベーションが生み出されていくというストーリーを描いています。
情報を得て、共有し、深める空間
コンセプトを、どのように空間に落とし込みましたか。
鎌内:ディープテック領域の企業が事業を拡大させるために必要な活動を、「INPUT(情報を得る)」「SHARE(共有する)」「DEEPEN(深める)」の3つに定め、その循環が促されるよう空間を構成しています。
入り口付近のコワーキングエリアには多業種・多分野の人が集うため、「INPUT」と「SHARE」のゾーンを設けました。一方、フロア奥は各企業の個室エリアであるため、アイデアを深める「DEEPEN」のゾーンとしています。2つのエリアは扉を設けず、ゆるやかに仕切ることで、3つの活動を回遊できる動線としました。
丹羽:さらに、大きなゾーニングの中にも3つの活動要素を重ね、「情報を得る」「共有する」「深める」を自然に行き来できる空間を目指しました。
たとえば、「DEEPEN」のゾーン中央にはハイカウンターを設置しています。アイデアや議論を深める場所でありながら、気軽に立ち寄って会話できる場とすることで、新たな情報や視点に触れる「INPUT」や、知見を共有する「SHARE」のきっかけも生まれるようにしました。
鎌内:また、「SHARE」のゾーンは、フロア外にも開かれる場と位置づけました。FIL.Tenjinはビル共用部に面し、共用部側が大部分ガラス張りであるため、ビルを利用する一般の方の視線が自然と入ってきます。この特徴を活かし、「SHARE」のゾーンと「FIL.」のロゴサイン、大型モニターを共用部から視認できる位置に配置。施設内の活動を社会に向けても開いていく仕掛けとしました。
空間に光を灯し、アイデアに熱を宿す
内装では、どのような点にこだわりましたか。
鎌内:空間全体のベースは重厚感と温かみのある木目調で統一し、コンセプトが内包する「アイデアが熱を帯びていく」イメージを素材から立ち上げています。
福岡地所様からは、コワーキングエリアと企業ごとの個室エリアで雰囲気を切り替えたいというご要望をいただいていました。そこで、どちらのエリアも温かみと落ち着きのある素材・色調をベースに据えつつ、コワーキングエリアは一層深みのあるディープなトーン、個室エリアはグレージュとディープグリーンを基調とした穏やかなトーンで構成。それぞれのエリアの表情を描き分けています。
鎌内:照明も、エリアごとの活動に合わせて設計しています。コワーキングエリアは、集う人々がリラックスして語り合えるよう、落ち着きのある明るさに。プレゼンテーションやイベントの場としても使うため、調光・調色対応とし、シーンに合わせて空間の表情を切り替えられる仕様としました。一方、企業ごとの個室エリアの照明は、思考を切り替えてアイデアの思索に集中できるように整えています。
丹羽:さらに、無数のアイデアに火がつき、熱を帯びていく様子を、空間のなかに大小さまざまな光を散りばめるかたちで表現しました。代表的なものが、コワーキングエリアのビッグテーブル上に並ぶテーブルランプ、C型カウンター上の造作照明、そして「FIL.」のロゴサインです。なかでもロゴサインは、シェード部分を3Dプリンティングで成形した内照式の立体意匠。3Dプリンティングの表現領域を切り拓くスタートアップ企業との共創で実現しました。ディープテック・スタートアップを支援する場という施設の意味と、サインそのものを接続させています。先端技術との共創で生まれたサインは、FIL.Tenjinのあり方そのものを体現しています。
空間の細部にまで息づくコンセプトが、共創の場を生み出す
プロジェクトを振り返っての感想をお聞かせください。
鎌内:「粒子が集まり、熱を帯びる」というコンセプトを、空間の細部にまで宿すことができました。福岡地所様の想いを軸に、ビル外観のデザインやFIL.TenjinのVIといった周辺要素を汲み取ってコンセプトを組み立てたため、施設内部はもちろん、施設が位置するビル全体とも一貫して連動する空間となりました。
丹羽:本プロジェクトは、イトーキがこれまで手がけてきた「一企業のオフィス」とは異なり「多様な企業が集い、共創する場」であることから、従来のオフィスデザインとは異なるアプローチが求められました。しかし、前提条件やつくり方が違ったとしても、コンセプトを活動する場の設計から空間の細部に至るまで、緻密に落とし込む姿勢が変わることはありません。完成したFIL.Tenjinをご覧になった福岡地所様からは、コンセプトを反映した空間と、そこに生まれる活動のしやすさを高く評価いただきました。
鎌内:FIL.Tenjinは、この場で生まれた交流やアイデアが社会へと波及していく施設です。ここに集う人々によって、フロア外からの視線も取り込まれながら、活動や空間の表情が日々変化していく。そこから新たなイノベーションが生まれていくことを楽しみにしています。
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